葛根繊維を使ったブランド“彩りの宴”ができました。
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」
これは『万葉集』巻一に載っている額田王の歌です。袖を振っている恋人の大海人皇子が、茜色の衣を着ていたのではないかと想像されています。万葉人がどんな色を好み、どんな生活をしていたのか、奈良時代に思いをはせてみると、今の時代になにか活かせるものがあるのではと思い、葛根繊維で開発する商品は万葉集をモチーフにして作ることにしました。
万葉人が着ていたと思われる色を再現して、今の時代に新しい感覚でよみがえらせたいと考えて、天然染料や顔料で奈良時代の色を再現して、自然にやさしく環境を考えた衣類を提案しました。
今では化学染料の発達で多くの色を作り出すことができますが、あえて顔料と天然染料で作り出す色を『万葉 ”彩りの宴”』として、染色家の中土井雄(なかどいまさる)さんに、主要な十色を染めていただきました。
この葛根繊維は、奈良県繊維工業協同組合連合会が開発されたものです。これまでくず粉を取ったあとの葛根は粗大ごみとして燃やされていましたが葛根には強い抗菌作用があることが分かりました。そこで葛根を繊維化してシルクとオーガニックコットンの天然繊維を加えると柔らかい風合いもいい繊維が出来たのです。葛根繊維には抗菌作用があるため虫がつきにくく、化学繊維でアレルギーを起こす人にも優しい繊維です。しかも草木染めをしていますので、天然染料の効果も加わります。
どんな十色かを紹介します。
・ 蘇枋色 すおういろ(赤系統)
・ 杏色 あんず色(橙系統)
・ 菜の花色 なのはないろ(黄系統)
・ 千歳緑 せんさいみどり・ちとせみどり(緑系統)
・ 藍色 あいいろ(青系統)
・ 紫苑色 しおんいろ(紫系統)
・ 唐茶 からちゃ(茶系統)
・ 錆浅葱 さびあさぎ (青系統)
・ 墨色 すみいろ(白・灰・黒系統)
・ 卯の花色 うのはないろ(白・灰・黒系統)
奈良時代の人びとが着ていたと思われる色彩を今に再現して、日本だけでなく、広く世界の人に発信したいと思います。
地球の環境を考えるとき、大切なことは人間も自然界の一部であり、自然とともに共生していくことです。奈良時代から伝えられている葛根繊維を使い、天然染料で染めた衣類を身につけることで、自然とのかかわりを感じてもらえたらと願っています。
6月14日から16日まで、東京で開かれた「国際ニット技術展」に、「彩りの宴」を初出品しました。私も初日に会場に行って、お客さんとお話をさせていただきました。女子大生に感想を聞くと、やさしい色なので着てみたいといわれ本当にうれしくなりました。
この葛根繊維で作るセーター、ジャケット、ショール、靴下などのほかに、これからインテリア製品や建築資材などの開発を考えています。
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