色彩の世界は奥が深く、私たちの生活においてあらゆる分野に大きく関わっています。カラーの時代と言われるようになり、その重要性が一般に認識されるようになりました。
ただ、「この色が好き」とか「この色が心地いい」といった感覚的に色彩を考える人が多いのですが、色彩は私たちの体に物理的に作用していることが科学で証明されています。
スイスの色彩学者ヨハネス・イッテンが行った実験によると、赤の壁に囲まれた部屋にいる人と、青の壁に囲まれた部屋にいる人では体感温度が大きく変わります。実験では、室温をどんどん下げていって何度くらいで寒く感じるかを試しています。赤の壁に囲まれている人は11度から12度位で寒く感じますが、青の壁に囲まれている人は15度でもう寒さを感じます。それは、赤に囲まれていると血液の循環が良くなり、血圧が上がりますが、青に囲まれていると血液の循環が停滞して寒く感じ、血圧が下がります。また、時間の流れかたも違って感じます。赤の壁に囲まれていると、40分しかたっていないのに1時間たったと感じますが、青の壁に囲まれていると、逆に1時間たっているのに40分にしか感じないという結果が出たそうです。しかも、目隠しをしてこの実験をしても同じ結果が出ることが分かりました。私たちは、目で色をみているだけではなく、皮膚でも色を感じとっているのです。
色は光のエネルギーです。私たちは、太陽の放射エネルギーを皮膚から吸収してビタミンDを体内で作っています。色は皮膚を通して、物理的に体に作用しているのです。
17世紀の終わり頃、ニュートンはプリズムを使って太陽光の分散の実験をしています。光が波長によって赤・だいだい・黄・緑・青・青紫・紫の7色に分かれているのを発見しました。この色の帯をスペクトルといいます。私たちが色と知覚しているのは、赤から紫までの波長だけで約780ナノメートル(10億分の1メートル)から約380ナノメートルの間です。このわずかな範囲の電磁波が目に見える光の可視光線です。赤より波長が長くなると赤から外の赤外線やレーダー波・テレビ波・ラジオ波などの電磁波で、紫より波長が短くなると紫から外の紫外線やX線・ガンマ線・宇宙線などがあり、目に見えない不可視光線です。色は電磁波で光のエネルギーであるということを考えると、体に物理的に作用しているのが理解できます。
色彩研究をされている野村順一先生の実験によると、まだ熟していないトマトを使って波長の違う赤・白・黒の色が太陽の放射エネルギーをどう伝えるかを調べてみました。3つの熟していないトマトにそれぞれ1つには赤い布を、1つには白い布を、1つには黒い布をかぶせて太陽のあたるところに置きます。枝についているトマトが完熟したときに3つの熟していないトマトはどうなっているかという実験です。白い布にくるまれていたトマトは、枝になっているトマトと同じように完熟していました。ところが、赤い布にくるまれていたトマトは完熟をとうりこして腐ってしまい、黒い布でくるまれていたトマトはまったく熟していないという結果が出たのです。白い色は、光を100%(理想では)反射しているので白に見えているのですが、太陽の放射エネルギーは布がフィルターとなって通過するので、トマトは完熟したのです。赤い色は、赤の波長だけを反射してそのほかの波長を吸収しているので赤に見えているのですが、赤の波長だけが布をとうってトマトに伝えたのです。長波長の赤のエネルギーはとても強くてトマトは完熟をとうりこして腐っていたのです。黒は、100%(理想では)光を吸収しているので黒に見えるのですが、太陽の放射エネルギーまでも布が吸収してしまうのでトマトは熟さなかったのです。トマトを人間の体に置き換えて考えると、風邪をひいているときに、白い下着に白い服を着ていると風邪が治りやすいと言われています。アメリカのデータによると、女性がいつも黒い下着に黒い服ばかり着ていると、お肌がしなびてくると報告されています。赤は、波長が最も長く太陽の放射エネルギーが強く、皮膚に浸透して暖めてくれるといいます。昔から、男性は赤いしめこみ、女性は赤い腰巻きをしたのは下半身を暖めてくれるからなのです。色彩が、私たちの体に物理的に作用していることがよく分かります。
では、似合う色とは何なのでしょうか?世界で初めてカラーアナリストのマニュアルブックを書いたアメリカのバニース・ケントナー女史は、人を4つのグループに分類しました。1979年「カラー・ミー・ア・シーズン」という本を出しとても話題となりました。当時、色についてあまり知られていないころに、色の秘密を公にしたため、アパレルメーカーからたいへん反発されたそうです。この本は、60万部を超えるベストセラーとなりました。
バニース・ケントナー女史の理論の元となったのは、アメリカの芸術家ロバート・ドアーが唱えたカラーキーシステムです。彼は、人の顔色の中にブルーとゴールドの下地の色を見つけました。誰でも、虹の7色にブルーかゴールドの色素を加えると、すべて7色の虹の色が着られると発表しています。ブルーをキーI、ゴールドをキー2に分けています。このシステムをもとにキー1のグループを、夏と冬に、キー2のグループを春と秋に分類しました。
カラーアナリストは、色の分析者という意味で、人の肌質をチェックして、その人が一番元気に見える色グループや、ベストカラーを見つける仕事です。正しく判定できる技術が必要です。
カラーコーデイネーターは、色の調整役という意味です。仕事の範囲は広く、大きく分けて4つの分野があります。1つは、プロダクトデザインで機械生産される工業デザインの分野です。自動車・家電製品・家具などに色彩を提案し開発にかかわれます。2つ目は、ファッションデザインの分野です。衣料を中心としたデザイン分野で、服飾、アクセサリー、化粧品などの色での開発です。3つ目は、スペースデザインです。空間のデザインで、マンションや店舗の色決めや、インテリア、街の景観まで生活空間に関する色彩計画に提案できます。4つ目は、ビジュアルデザインです。グラフィックのデザイン分野で、パッケージ、テレビ関係、コンピューターグラフィックスなど感性が生かされる色彩提案ができます。1995年から、文部省が認定する色彩コーデイネーターの検定試験が始まり、受験者は急増しています。
人の肌色は、カロチン、メラニン、そして血液に含まれるヘモグロビンの割合によってきまります。皮膚にカロチンが多く動脈の赤みの影響が強い人は、お肌が黄みがかったタイプ(イエローベース)に、カロチンが少なく、静脈のブルーの影響が強いと青みがかったタイプ(ブルーベース)になります。
黄みがかった肌質(ウォーム系)をもつ人は、青みの加わった色、青みがかった肌質(クール系)をもつ人は、黄みの加わった色は似合わないのです。なぜなら、光のもとでは顔に一番近い胸元の色が顔に影響するからです。絵の具のイエローと、ブルーを混ぜると色がくすんでしまいますが、同じように顔の輝きが失われて、しみが濃く見えたり、小じわが目立ったりします。
この3つの色素の割合は、遺伝子で決まり生涯変わることがありません。ということは、似合う色は、生涯変わることがありません。好きな色でも似合わない色があり、その確率は50%と言われています。
黄みがかった肌質をもつウォーム系は、春シーズンか秋シーズンに分かれ、青みがかった肌質をもつクール系は、夏シーズンか冬シーズンに分かれます。このシーズンのイメージは、必ずしも四季のイメージとイコールではなく、単なる4分類です。米国カラー・ミー・ア・シーズン社の創業者バニース・ケントナー女史は、各シーズンの基本的タイプをこう表現しています。
「春は、明るく元気にさせてくれるシーズン」
「夏は、物静かで落ち着きのあるシーズン」
「秋は、物事を成し遂げる実りの多いシーズン」
「冬は、美とドラマをもたらしてくれるシーズン」
ウォーム系(春シーズンと秋シーズン)の人は、どちらかといえば外向的でエネルギッシュな気質を備えているので、いろいろな計画や企画に積極的に参加することが多くなります。
一方、クール系(夏シーズンと冬シーズン)の人は、ウォーム系の人と比べてどちらかと言えば内向的で、落ち着いていてせかせかしたところがありません。自分から話しかけるというよりは、人の話をよく聞くタイプでいつも控えめな態度をとることが多いようです。
春シーズンの人は、黄みがかったウォーム系の肌質をしています。夏や冬シーズンの人に比べると、カロチンの量も多く皮膚の黄色をとうして動脈の赤い色が見えるのが特徴です。外見的には血色がよく、若々しいイメージがします。いつも快活で、元気で、生き生きとした印象を受けるのも春シーズンの人の特徴で、何事に対しても前向きな姿勢で、やや楽観的なタイプの人が多いようです。
似合う色は、明度(明るさの度合い)がノーマルで彩度(鮮やかさの度合い)が高い、全体に黄みを帯びた色です。わかりやすく言うと、薄いイエローのセロファンをとうして7色の虹の色を見ていると思ってください。赤なら朱赤、緑なら新緑の明るい葉っぱの緑、黄ならバナナの黄のようにすべての色に黄みが加わった色です。
カラー・ミー・ア・シーズン社の創業者であるバニース・ケントナー女史は、春シーズンと思われる有名人として次の人たちをあげています。マリリン・モンロー、バーバラ・ストライザンド、メリル・ストリープ、ロバート・レッドフォード、ジャック・ニコルソンと言った人たちです。
春シーズンと同じウォーム系の肌質を持つ秋シーズンの人の特徴は、春シーズンの人に比べると皮膚が薄いことで、動脈の赤い色がカロチンの多い皮膚をとうして見るため、ややオレンジぽく見えます。4つのシーズンの中で唯一オレンジ色が似合うのが、秋シーズンの人の大きい特徴です。
気質的には、計画したことは何でもやり遂げるという強い意志の持ち主です。また、決断が早く、進んで働き、リーダーやオーガナイザータイプが多いと言われています。ただ、4つのシーズンの中で一番頑固な人が多く人との摩擦が少なくありません。
似合う色は、紅葉の頃の少し渋いアーストーン調の色です。赤ならレンガ色のくすんだ赤、緑ならオリーブのような緑、黄ならからし色で、明度がノーマルなのは春シーズンと同じですが、彩度は低くなります。
秋シーズンの有名人としては、ジェーン・フォンダ、ジョン・ウェイン、スーザン・ヘイワード、ハンフリー・ボガード、クリント・イーストウッドが属していると言われています。
ブルーベースのクール系の肌質をもつ夏シーズンの特徴は、冬シーズンと比べると皮膚が薄く、静脈の青色が表面にあらわれていることです。皮膚が薄いため、人前で急に指名されたり、当惑したときに真っ赤になるということがあります。日焼けしても赤くなって、しばらくするともとに戻ってしまうタイプです。
見た感じでは、ゆったりとしていて、細かいところにも気を配り、慎重に言葉を選んで静かに話すタイプです。どちらかといえば人をサポートするほうで、人前にでるのが苦手です。決断力がにぶく優柔不断なところがありますが、誰とでもうまくやっていける外交官タイプです。
似合う色は、明度が高く彩度の低いパステルカラーです。赤ならワインの赤、緑ならミントグリーン、黄ならクリームイエローです。 このシーズンに属していると思われる有名人は、ファラ・フォーセット、グレース・ケリー、ブッシュ元アメリカ大統領、ポール・ニューマン、ゲーリー・クーパーといった人たちです。
冬シーズンの人は、夏シーズンの人と比べると皮膚に厚みがあるので陶器のようなすっきりとした肌質が特徴です。その陶器的な肌質にしみやソバカスがある人、ブラウンの肌質でよく日焼けするタイプの人が多いようです。
気質的には、かなり神経質なところがあり、感受性が鋭く芸術家タイプと言われています。自分の世界をつくっているので近寄りがたい雰囲気で孤立してしまうところもあります。
陶器的なすっきりとした肌の冬シーズンは、強い色をあてても顔にあまり影響しないので、明度がノーマルから低く彩度の高い印象的な色が似合います。赤なら原色の赤、緑なら松葉の深みのある緑、黄ならレモンの黄です。
冬シーズンに属していると思われる有名人は、エリザベス・テイラー、マドンナ、シルベスタ・スタローン、グレゴリー・ペックといった人たちです。
4つのシーズンがあって、それぞれ似合う色グループが違います。人は、7色の虹の色すべてをきることができます。赤が似合わないとか、緑が似合わないというのでなく、似合う赤や緑もあれば、似合わない赤や緑もあるということです。ただ、色調が違うだけです。
(1)ファンデーションテスト
肌質が黄みがかったイエローベースか、青みがかったブルーベースかは、外見で判断するのはとても難しいものです。そこで、黄みの入ったベージュ系のファンデーションを4種類と、青みの入っべージュ系のファンデーションを4種類を、それぞれ右腕と左腕の内側に塗り分けます。どちらが肌になじむかをチェックします。黄みのはいったファンデーションのほうがなじんでいれば、肌は、イエローベースで、春か秋シーズンのどちらかで、青みの入ったファンデーションのほうがなじんでいれば肌はブルーベースで、夏か冬シーズンのどちらかになります。
(2)パーソナリティテスト
似合う色によって気質が違いいます。4つのシーズンそれぞれに統計で性格分析のデータがあります。このテストは、自己診断ですが性格テストの答えから気質はどのシーズンか分かります。
(3)サブジェクティブカラーテスト
主観色のテストです。自分の好きな色をチェックします。8つの色グループがあり、レッド、グリーン、パープル、イエロー、ピンク・オレンジ、ブラウン、ブルー、ニュートラルそれぞれ4つの色のなかで一番好きな色を選びます。好みの色がどのシーズンか分かります。
(4)アイパターン
瞳の中の虹彩のデザインをチェックします。今、世界的に注目されているのが虹彩のデザインです。指紋と同じで一人一人デザインが違います。人間を識別するのに一番有効とされています。虹彩には、2〜3つのシーズンの特徴が入っています。
(5)カラードレイピング
胸元にベルベットの色布をあてて顔の変化をチェックします。36枚の色布があり4つのシーズンの中でどのシーズンが一番肌がきれいに見えるか、元気に見えるかなどをチェックしてシーズンの判定をします。
以上、5つのチェックをして春夏秋冬いずれのシーズンかを分析します。ベースの似合う色グループが分かると、次にブレンドシーズンを見つけます。ブレンドシーズンは、パーソナリティテストやサブジャクティブカラーテスト、アイパターンから判定します。
無条件で誰もが似合う色が体の調和色で4つあります。
(1)薄い肌色
腕の日に焼けていない内側の色で、人によって薄いベージュ、白に近い人などいろいろです。
(2)濃い肌色
指先を強くつまんだときにでる赤い色は似合う色です。人によって朱赤に見えたり、ワインレッドに見えたりします。
(3)虹彩のブラウン
日本人はみんな黒目ですが、黄みの強いブラウンや青っぽいブラウンの目もあり十人十色です。
(4)髪の色
自分の髪の色は似合う色です。みんな黒髪と言っても一人一人微妙に色が違います。
人は、似合う色を着ることで、とても元気にいきいきと健康的に見えます。逆に似合わない色を着ていると、自分が元気でも疲れて見えたり老けて見えます。ただ、似合わない色で好きな色をどうするかですが、顔に影響しない腰から下に着るとか、顔の周りに似合う色のスカーフやブラウスでワンクッションおくといいでしょう。
アクセサリーですが、イエローベースの人はゴールド系、ブルーベースの人はシルバー系が肌になじみます。
自分の似合う色を知ることは、自分自身を知ることでもありとても大切です。
今、企業の商品開発をしていますが、1998年9月日本で初めてブルーベースのファンデーションを6色色構成をして発売されました。これまで日本にはまったくブルーベースの人に合うファンデーションがなかったのです。カバーマークのジャスミーカラーファンデーションは、ブルーベースとイエローベースの判定をして販売しているためお客様の信頼もあり大変よく売れています。また、大阪府豊中市の老人ホームの内装を担当したのですが、思い切って床も壁もピンクにしたところ入所されているお年寄りの皆さんが日に日に元気になってこられています。車椅子に乗っていたお年寄りが歩けるようになられたり、うつ病だったお年寄りが笑うようになったそうです。ピンクは、女性ホルモンの分泌をうながす作用があるためで、色のパワーに驚かされています。そのほか、医療機具に色をつけたり、寝具のカラー提案などをしています。
これからも、色彩に関わるいろいろな商品開発をしていきたいと思っています。
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